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唐突にミニパロディ小説 「茶色いゲーム」(その1)

昼下がりの光が降り注ぐ定食屋で脚を伸ばしながら
俺とマッコイは、特に何を話すというわけでもなく、
お互い頭に浮かんだことをただやりとりしていた。
それぞれ相手がしゃべる中身にたいした注意は払っていなかった。
食後のお茶をゆっくり流し込みながら、
午後勤務開始の1時を待てばよい、心地よいひと時だ。
マッコイが昔のTRPGを捨てなきゃよかった、
と言ったときはさすがに驚いたが、ただそれだけだ。
埃まみれでボロボロになった箱を見るのは悲しいものだが、
20年もゲーマーの道を歩んでいれば
いずれそのときが来ると思っていなけりゃならない。

「わかるだろう、あの表紙を茶色だって言い張るには無理があったんだ」
「たしかに、D&Dベーシックセットは赤表紙だものな。
 けど、金に困ってるなら、オークションに出すべきじゃなかったのか」
「お金のせいじゃない。 茶色の表紙じゃなかった、ただそれだけさ。」
「何だって? シミュレーションゲームといっしょになったってことか?」
「ああ、同じだ」

シミュレーションゲームのことなら俺も知っていた。
先月、自分のコレクションを始末しなければならなかったからだ。
神保町をさまよってようやく購入できた思い出の“Battle for Stalingrad”は
冬季東部戦線が舞台だから、ボードは不幸にも白一色だった。

たしかに粗雑なシステムの氾濫はがまんならないところまできていたし、
国家から研究予算を得た「青少年心理とゲームに関する研究」の専門家によれば
各種ゲームには何らかの「茶色」が含まれている方がよいという。
よいのは茶色だけ。
なぜって、茶色が最も都市生活に適していて、
精神にストレスを与えず、目にもはるかに優しいことが
あらゆる実験によって証明されたらしい。

なに色だってゲームには変わりないのに、とは思うが、
何とかして問題を解決しなきゃならんというなら
茶色以外のゲームを廃棄する法律だって仕方がない。
街の自治会の連中が古紙業者を無料で手配してくれた。
月末にあった回収で、あっという間に茶色以外の色を使ったゲームは処分された。
その時は胸が痛んだが、
人間ってヤツは「のどもと過ぎれば暑さを忘れる」ものだ。

でもTRPGの表紙までとはさすがに驚いた。
何でかはよくわからないが、シミュレーションゲームより市場は大きいし、
あるいはよく言われるように、多感な青少年に重大な影響を与えるからかもしれない。

なんにしても、マッコイは俺がシミュレーションゲームを処分したときと同じく、
何事もなかったかのように話していた。
きっと彼は正しいのだろう。
あまり感傷的になっても仕方がないし、
「表紙イラストは茶色がいちばん安全」というのはたぶん本当なのだろう。
昼休みがそろそろ終わりそうだったので、
俺たちは定食屋を出たが、妙な感じが残った。
まだお互いに言い足りないことでもあるかのように。
どこかすっきりしなかった。

(・・・明日へ続く)
by mccoy1234 | 2005-09-04 01:24 | Trivia
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